府中地区で、草木染めと手織りの工房「土曜日の月」を営む小竹直美さんから「月見草を染めるので見に来ませんか?」とのお誘いがあり、子どもと共に貴重な瞬間に立ち合わせてもらいました。
まず目に飛び込んで来たのは入り口の上に掲げられた「『(株)朝日屋百貨店」という店名。この建物は、直美さんの祖父と父が百貨店を夢見て、食べ物や雑貨、自転車に至るまで、ありとあらゆる商品を扱ったお店を長く続けられていたところで、ご年配の方にとっては、昔お菓子や日用品を買いに来た思い出が詰まった場所なのだそう。その後叔父が仕出し屋さんを営み、今は染め物の工房として使われています。
この日は、直美さん自身も初めて月見草を使って絹糸を染める記念すべき日。「着物用の糸を染める機会は年に1回、2回あるか無いかで、しかも月見草で絹糸を染めるのがとても綺麗なので写真を撮っていただくならぜひ、と思ってお声がけさせていただきました。」山や野で摘んだ草木を使い糸を染め、自分で染めた糸を紡いで着物を織るとの言葉に、驚きが隠せません!控えめで柔らかな印象の中に、芯の強さを感じる佇まい。丁寧に、手仕事のある暮らしをしていらっしゃいます。
まず、月見草の葉と茎を煮出して漉し、熱した液に上の写真の真っ白な絹糸を入れていきます。糸が液の中でフワ〜と広がるように、糸に無理させないように華麗な手つきで糸を泳がせていきます。揺らぐ糸の美しさに心を奪われ、染色の世界にのめり込んでいった直美さんの心の一端が、少しわかったような気がしました。
しばらく続けたのち、水気を絞って外へと向かう直美さん。「お日様と空気に当てる、光媒染とか空気媒染と言われている色を定着させる工程で、天候によっても染まる色が変わるので、染めはこういうお天気の日がいいですね。今、お日様と空気の力で、糸に色が入っていってるので、この後液につけた時にグンと色が変わるんですよ。」とにっこり。陽の光があたり、絹糸がキラキラ。自然の色の美しさ。
液の中で糸を泳がせる染めと、光媒染。それをあと二回繰り返し日陰で休ませたあと、色止めを行います。
今回は木酢酸鉄を水で薄めた液を使用します。全て目分量。この液の色の濃さが仕上がりを左右するので、真剣な表情になる直美さん。桶の中の液の色を確認し、答えのない問いを断ち切るかのように思い切って糸を入れていきます。水の中でバシャバシャと糸を動かすと、一気に色が変化。
光に当てるとまた色の変化があります。「すごくいい色になった!」と初めての月見草での染めに充実の様子。
「化学の世界なんだけど化学だけでは表せないんです。色々な条件が重なって人間が生まれたように、色もそういう奇跡が重なって出てくるので、染めも命なんですよね。ゴールの色は自分の中であるんですけど思い通りにはならないので、ある程度幅をもたせています。」
最後はまた月見草の液に戻して、糸の色が決まるそうです。
直美さんが染織の世界へとどっぷり身を置くきっかけとなったのが、人間国宝である染織家・志村ふくみ先生の存在。「趣味で布を染めたりしていたんですが、糸から染められたらなと思っていた矢先にTVに志村先生が出演されているのを何度か目にしたんです。その中で、染織が学べる芸術学校“アルスシムラ”を創設したと言われているのを聞いて、ちょうど自分が求めていることがこの学校にあると感じたんです。」学校は京都。その時期は垂井を離れていたと思いきや片道2時間かけて、卒業制作の期間以外は垂井から通われたそう。
そこで培った技術や精神を軸に「土曜日の月」では、ゆっくり、じっくり、草木や自分自身と語り合う時間を大切にしているそう。工房に流れる癒しの音楽や、チリーンという風鈴の音。直美さんの優しい語り口調。ぜひ体験して欲しい、と思っていたら、10月、11月の土曜日または日曜日に、週に1日のペースで秋の草木染めワークショップを開催されるとのこと。1日コース(大人3,000円・小人1,500円)は周辺を散歩して草木を採集するところから。半日コース(大人2,000円・小人1,000円)は工房が用意した染料で染色体験。※糸ではなく、ハンカチやストールを染める体験です。布代は別途。
体験希望の方は下記連絡先まで。
垂井の農家nekko farmもコラボした藍も!着々と垂井産で創る藍プロジェクトも進行中のようです。
●お店情報
土曜日の月
垂井町府中2419-3
090-9183-7803